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 拍手お礼のSS 04のおまけ  ありすと将軍    将軍×行灯

                        ありすは女優!

 田口が東京出張の前夜。
「こらっ、ありす。ちゃんとこっちを向け」
 もぐもぐ。大好きなチンゲンサイの葉を食べるありすには、とってもはた迷惑な注文。 きょとんと自分の名前を呼んだ人物に目を向ける。でも、直ぐに意識は食べ物へ。

「ほら。こっち。ここを見るんだ」
 滅多に使わない携帯電話をありすに向けて、写メに励んでいるのはオレンジ新棟のジェネラル・ルージュこと将軍の速水晃一。
 そのわがままが通らないのは唯一、腹黒狸の病院長だと言わしめる孤高の天才。そんな彼にもわがままが通じない相手がもう一人居た。

 それはある日突然やって来た同居人。いや、人間ではないので同居うさぎか。速水家にやって来たいきさつは、超単純だったが、来てしまったものは仕方がない。しかも、連れてきた犯人が最愛の恋人だとしたら、わがまま将軍も首を横に振るわけにいかず、取りあえず黙認する羽目となった。
 だが、この新人はただのうさぎではなかった。
 速水の記憶にあるうさぎは、小学校の飼育小屋にいたごく普通の白いうさぎだった。赤い目だったので、珍しいとは思ったが、うさぎはそういうものだとインプットされてしまったので、田口が連れ帰ったうさぎに、目が点になった。
 ちょっとつぶれた顔に、垂れ下がった長い耳。しかも、茶色の不思議な色の毛は長くふわふわ。
 おそるおそる触ると、毛は本当にふわふわで、耳はくたびれたタオルのように下がったまま。何度か持ち上げようとしたら、いやっと首を振られてしまった。そして、速水の手の上に乗ってしまうぐらい小さかった。
「えらく小さなうさぎだな。ミニうさぎなのか?」
「違う。まだ、子どもだから小さいんだ。だから、雑に扱うなよ。大人になると三キロぐらいにはなるらしいってさ」
「ふーん」 
「ぬいぐるみみたいだろう」
 そう言いつつ、田口が手にしたデジカメを速水とうさぎに向けた。
「お前、うさぎと俺を撮って楽しいか?」
「うん。だって、超ラブリーなありすと、すっごくいい男の速水のツーショットなんて美味しすぎて…」
「あっ、そう。俺は行灯がそれほどミーハーだったとは思わなかった」
 まったりするべき時間に妙にテンションが高い田口を前に、夜勤日勤の疲れがどっと出た速水は、好きにしろとばかりに、言われるまま、うさぎとのツーショットを提供した。

 ありすと名付けられたうさぎの世話をするのは田口で、速水は部屋を散歩するありすを見守るぐらいしかしない。が、やはり小動物は可愛い。なので、気がつくと、速水はありすにおやつをあげて、田口に説教されるのが日課になっていた。

「動物の撮影は難しいな。ほら、ありす。こっちにおやつがあるぞ」
 無添加の乾燥パパイヤを速水が側で振ると、ありすがピクピクと鼻を動かしつつ、ついて行く。そして、速水の手にあるパパイヤに気がつくと、ちょうだいと速水の手にしがみついた。
 カシャ。
 小さなふわふわの手を速水の手に乗せて、ちょうだいと彼を見た瞬間が記録された。まるで、ぬいぐるみのようなありすの愛らしさがしっかり保存できて、速水は大満足。
「かーいーなぁ」
「行灯より、俺の方が可愛く撮れただろう?」
 自慢げに真剣な顔をして、ありすに写メを見せている速水を、田口は俺に対抗しているわけ?と情けなく感じてしまう。しかも、自慢する相手がありす。その理由が分からない田口は、自分が速水を無視していた?と朝食の準備をしながら、自分を振り返る。
 しかし、どう考えても、速水を粗雑に扱った覚えはない。むしろ、彼の我が儘に耐えたのは田口の方である。
 うーん。何が速水をありすに走らせる?
 田口は勝手に速水の心を解釈しようとする。が、考えれば、考えるほどぐるぐるし始める。
「速水。俺に不満があるなら、ちゃんと言えよ」
「はあ?」
 思い切って言った問いの返事は実に間抜けなものが返ってきた。
「だから、俺に不満があるんだろう」
「いや? 可愛いありすの写真を部長室に飾ろうかと思って…。それより、どうしたんだ?」
 きょとんと、速水とありすが田口を見た。
「本当に?」
「ああ。お前こそ、他人の愚痴ばかり聞いていて、疲れてんじゃないのか? 何か、被害妄想になってるぞ。しばらく、外来、休みにしたらどうだ?」
 心配そうに速水が田口を見上げる。
「…それは大丈夫」
「本当か? 何だったら、俺から病院長に話をしてもいいけど…」
「そうじゃなくて…。何でありすに写メを見せるんだ?」
「何でって、モデルには見る権利があるからに決まっているだろうが…」
 さも当たり前というように、速水が断言した。
「……」
「お前、ありすをうさぎだって差別してないか? ちゃぁんと、ありすは分かっているだぞ。それに気づかないのは、人間がおごっているからだ」
 なっ。とありすにウインクする将軍、速水。田口はようやく気がついた。速水にとって、人もうさぎもすべて等しい存在なのだと。彼にとって、命はすべて同じ重さなのだと。
「良く撮れたら、俺にもちょうだい。愚痴外来に飾るから…」
「ああ、いいぞ。俺も二階のちびどもに、ありすの写真とビデオをせがまれているからな」
 カラカラと豪快に笑うと、速水は再び、携帯電話をありすへと向ける。

 その後も将軍のありす撮影会は続き、田口がいい加減、風呂に入れと言う頃には、膨大なありす写真がデジカメに出来上がっていた。
 しかも、カメラマンとモデルは疲れたのか。仲良くくっついてリビングの床で爆睡して、速水も速水なら、ありすもありすだと。田口に盛大なため息を吐かせたのだった。そして、そんな二人をしっかり写メする田口だったりする。

 そして、速水が撮ったありすの可愛い写真は、桜もち(獣医学部救命救急センター)に飾られ、田口が撮った速水とありすのツーショットは院内のプレミアとして密かに売買され、桜宮市動物保護センターの捨てられた犬や猫のえさ代に使われた。


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  命の重さは動物も人も同じ。将軍はそれが儚いと痛感しているからこそ、大切にするだけでなく、尊敬もしているんです。それは田口先生も同じ。
さらに、直接、命を救う将軍に対して、行灯先生はちゃっかり速水先生をだしにして、こっそり手助けをしています。
平成22年8月22日(日) 一部改稿・掲載
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